由布岳・祖母岳・鶴見岳の伝説

 

昔、由布岳、祖母岳は雄々しい男の山、そして鶴見岳は美しい女の山であった。

三つの山がお互いに隣り合わせで住んでいた頃、祖母岳と由布岳の二つの山は、同時に鶴見岳を愛してしまった。

祖母と由布岳は恋の鞘当てを繰り返し、地震や山崩れなどを起こし、土地が次第に荒れて行った。

神は鶴見岳に一人の男を選ぶように命じた。

鶴見岳は悩んだあげく、若者の山由布岳を選び、由布岳と夫婦の契りをなし、熱い湯を別府と湯布院に噴出させた。

恋に破れた祖母岳は涙を流しながら、屈辱の姿を二人に見られることをつらく思い、この地を去って行った。

その離別の日、流した涙が溜まって出来たのが志高湖である。

祖母岳は現在、40キロほど南の大分県と宮崎県の県境にある。この山は九州の秘境の山と言われ、うっそうとした原生林に被われている。その原生林は己の姿を包み隠し、愛する鶴見岳から見られないための衣だと言われている。

この話は単なるロマンチックな伝説ではなくて、近代地球物理学の学説とも奇妙に一致する。

九州は二つのプレートに分かれて動いている。そして、その九州は時計回りに、年間に数センチ動いている。日蓮上人が元寇を打ち破る祈願をしたことで有名な筥崎宮の海に突き出た鳥居はその中心が太陽が沈む真西に建造された。

最近の測量の結果、少しずつずれていることが判明した。

二つのプレートは二つの構造線で分かれている。一つが別府−島原構造線、もう一つが臼杵−八代構造線である。

この大きな構造線に囲まれた巨大な陥没帯を地溝帯と呼んでいる。

この地溝帯の中に無数の火山が存在している。その中でも最も大きいのが阿蘇山である。この地溝帯は年間に数センチ程度離れて行っている。単純に計算すると、約50万年後には完全な二つの島になる。
そして、ここでこの巨大な地溝帯が発生する以前、数十万年前の太古の九州を再現すると、面白いことに、現在40キロ南に離れた祖母山はぴったりと、鶴見岳、由布岳と三角形を作る位置に来るのだ。
まさに、伝説でいう“三つの山がお互いに隣り合わせで住んでいた頃”という時代があったことが証明されるのである。
祖母山にとって不幸だったのは、由布岳と鶴見岳が別府−島原構造線上に東西に並んでいたのに、ひとり祖母岳は南の臼杵−八代構造線上に乗っていたことである。

 

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