ミロス島 (Milos)

 ギリシャ電力庁に納入された2,100キロワットの地熱発電プラントを見るため、ミロス島に行くことにした。案内役は商社の現地社員のエロイ氏である。アテネからミロス島までは空路もあるが、丁度観光シーズンで空席が無く、やむなくフェリーで渡ることになった。フェリーといっても1万トン級の大型フェリーで、途中5つの島に寄っていくため、ミロス島まで8時間もかかる。

フェリーの発着場であるピレウス港に着くと、大型フェリーが幾隻も係留され、乗客の積み降ろしに慌ただしい。ピレウス港に着いたのが午後4時半。出航は午後6時である。我々の乗るフェリー・キモロス号は、港の一番突端に係留されていた。長いタラップを渡って、船尾に大きく開いた口から船内に入る。客室は3階建てになっていて、一番上が一等個室、その下が一等客室、一番下が二等客室となっている。我々は、一番上の一等個室を予約していた。

まだ陽が落ちていないので、船首のデッキに出てビールを飲みながら辺りの景色を眺める。風が肌に心地よい。ギリシャ本土が次第に遠ざかり霞んできた頃、辺りは急に暗くなったので部屋に戻った。部屋には、いつの間にか半ズボンに着替えたエロイ氏がベッドの上に横になって本を読んでいた。

「早く行かないと無くなってしまう」

と言う彼の忠告に従って、早速食堂に急いだ。彼の言うとおり、食堂は既に客で満ちていた。やっと空きテーブルを見つけ、食事にありつけた。スパゲッティとサラダだけの簡単な食事だが、ビールがあるので、もう、文句なしであった。

再び部屋に戻り、エロイ氏から「グッド アイデア」と何度も感謝されたカナディアン・クラブ(ウイスキー)のボトルとさきいかにピーナッツのつまみを取り出し、酒盛りが始まった。読みは正しかった。8時間の船旅の無寥を慰めてくれるのに大いに役立ったのが、このボトルであった。