五足のくつ(1)

 

2002年7月1日、九州でもない、日本でもない、アジアの中の天草の下田にオープンした温泉旅館「五足のくつ」の駐車場に着いたのは、チェックインの時間より1時間も早い午後2時でした。

他に1台の車も止めてなくて、人影もなく、辺りはひっそりとしていました。

駐車場に車を停めて奥の方へ石段を登って行ったところの左手に小さな橋が有り、その橋の向こうから一人の男性が姿を現してこちらにやって来ました。

後で分かったのですが、その方がこの「五足のくつ」を設計された支配人の木籔新二さんでした。

木籔さんに案内されて、橋の奥の「ヴィッラ・コレジオ」と名付けられた母屋棟に入ると、そこはレセプション兼バー兼ライブラリーになっていて、左手奥に大会社の社長さんが座るような大きな机とひじ掛けが付いた立派な椅子が有り、机の前に貧弱な小さな椅子がポツンと置かれています。

なんと、この机がチェックイン・チェックアウトの手続きをする場所で、木籔さんに促されて机の前の小さな椅子に腰掛けました。

この配置はまさに主客転倒であり、後でオーナーの山崎博文社長に是正勧告のメールを出しました。

しかし、真っ新なゲスト・ブックの一番目に署名するときの気分はまんざらでもありませんでした。

 

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