ここまで来しを 水飲んで去る
昭和11年 岩手県西磐井郡平泉町にて
其中庵を飛び出してはや7カ月になろうという長旅だが、時間の流れはついに山頭火を東北の平泉まで運んできた。いうまでもなく平泉は芭蕉ゆかりの地で、「奥の細道」への憧憬が山頭火をこの地まで駆り立てたのであろう。
だが山頭火は、
<毛越寺旧跡、まことに滅びるものは美しい!
中尊寺、金色堂。
あまりに現代色が光っている!
なんだか不快に感じて、平泉を後に怱々汽車に乗った>
と、素っ気なくその日のうちに引き返している。そして平泉を、
<ここまで来しを 水飲んで去る>
と、つとめて突き放すように詠んでいる。